最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)276号 判決 1957年12月10日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人沢克己の上告理由第一点について。
原判決は、所論のように転貸の事実があれば背信性如何に拘わらず常に解除権が発生すると判断しているのでなく、上告人のなした転貸については、「同居を余儀なくした」事情は認められないとして、背信的行為と認めるに足らない特段の事情はないものとし、よつて解除権が発生した旨判示しているのであり、なんら所論の判例に違反するものではない。論旨は原判示を正解しない謬論である。
同第二点について。
しかしながら、無断転貸が背信行為にあたるものとして解除権が発生した場合であるときは、その後その転貸が終了したからといつて、その一事のみにより、右転貸が回復し得ない程信頼関係を破壊したものではないとし、解除権の行使を許すベからざるものと断定しなければならぬものではない。
本件において、原判決は、上告人が大塚、篠原らに対する無断転貸に至るまで無断転貸を反覆累行した経緯のほか、大塚らが退去したのは賃貸人の苦情に由来し、同人らの発意に基いたものであつた事実をも認定した上、大塚らに対する無断転貸をもつて「賃貸借の相信性を破壊するに足る背信行為であるというに妨げなきは勿論」であるとするとともに、「解除当時たまたま転貸が終了していても、それがため信頼関係が回復され将来の不安が去つたものと認めがたいことはいうまでもないところ」であると判定しているのであり、その判定は首肯するに足るものであつて、かかる場合につき原判決が、「本件解除当時における転貸終了の事実はなんら解除の効力を阻却しない」と判断したのはもとより正当であり、その間解除に関する法理法則を誤つた違法は存しない。
所論はひつきよう独自の観点に立つて原判決を非難するにすぎないもので採るを得ない。
同第三点について。
所論背信性を肯定した原審の判断は、その認定にかかる事実関係をもつてすればこれを肯認し得ぬことはなく、権利濫用を否定した判断についても同様であつて、すべて所論の違法はない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)